ツリーとハープ

ハープからツリーへのお手紙。いつか届くかな。

2通目。君が読んでくれると思うと嬉しい。

 

いつも楽しませてくれるツリー

 

 

元気かい?

そうか。それを聞いて安心したよ。

 


今日は美しい景色について話そう。

僕は、いつかひまわり畑に行きたいんだ。

鮮やかな夕焼け。広大な土地で、まっしぐらに伸びているひまわり。

素敵だと思わないかい?

そこに君がいたらもっと楽しいはずさ。

 


ああ、夕焼けに染まる麦畑もいいかもな。

2人で追いかけっこしたりさ。

そうだ。君は、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んだことがある?

麦畑と聞いて思い出したんだ。

 


原題は『The Catcher in the Rye』というんだけど、訳した人は天才だと思う。

ちょっと内容に触れてもいいかな。

 


主人公がね、大人になった時、ライ麦畑のつかまえ役(The Catcher in the Rye)になりたいというんだ。

広いライ麦畑に子供たちが何千人といてね、で、その畑は崖っぷちのところにあるんだ。

だから、主人公が崖のふちに立って、子供たちが落ちそうになったらつかまえるのさ。

馬鹿げていると思うかい?

 


僕は、これは比喩なんじゃないかと思う。

この話から、子供たちのイノセンスを強く感じたよ。純粋無垢、天真爛漫って感じだね。

 


でも、子供らしくいることを許されない子供だって、きっとたくさんいるはずさ。

周りの大人の態度が子供で、自分が無理に大人にならなきゃいけなかったとかね。

親子の役割が逆転しているんだ。

 


そういう子達も、根は純粋だから、自分の境遇が何かおかしいってことに気づけない。疑いたくないんだ。

親は子供を愛しているもの。世の中の大半はそう思うだろう?

 


今挙げたのは、例えばの話、ほんの一部。

こういった子供を含む、すべての子供たちがね、麦畑の崖から落ちそうになったら。つまり、その命を自然に還そうとしたら。

引き留めてくれる大人が。抱きしめてくれる大人が必要だろう?

主人公はそういう大人になりたいんだ。

素敵だね。

 


後もうひとつ、僕が題名を訳した人を尊敬するのはね。

原題の『The Catcher in the Rye』っていうのは、つまり、主人公の大人の姿のこと。

日本語に訳すと、『ライ麦畑でつかまえて』だったよね。

これ、子供たちのセリフじゃないかな。

原題は三人称視点から主人公を見ていたけど、これは、子供たちから主人公を見た視点。

セリフ仕立てにする事で、自分が物語の一員になったような気がするし、「つかまえて」がひらがななのが、柔らかくて子供らしい感じがするね。

 


…僕の好きな本のひとつさ。子供の頃の気持ちを忘れそうになったとき、読んでみてほしい。きっと君の力になる。

 


長く話しすぎちゃったかな?君と話すのはなんてたのしいんだろう。

惜しいけど、今日はここでお別れしようか。

 

 

 

2回目の手紙。読んでくれてありがとう。

ハープ